7-4, インテリジェンスマネジメントへの転換

目的思考、創造思考、全体思考に続く4番目の柱は、情報への理解と態度です。現状延長でいくら思考を進めてみても、新たな気づきや発想を得ることは困難です。これは、前述の避けなければならない4つの発想・態度と、意識転換しなければならない3つの思考態度でも論じたとおりです。

情報への態度では、企業の外部情報、環境の変容を不断に取り込んで、トレンドを意識する必要があります。眼前の断片情報に頼っていては、変化の本質を見損ねることになります。

情報を重視する意味は、既存の概念に囚われ、経験から安易に物事を判断すべきではないということです。自己の情報感覚を磨き、感度を高め、感性を磨いていく。これが個人レベルのインテリジェンス能力であり、リテラシーといえます。

情報には、ハード情報ソフト情報があります。ハード情報とは、過去のデータであっ たり、データが定量化されたものとして表現されます。一方、ソフト情報は、個人の内面に保有された情報で、個々の感覚、理解、解釈、発想など、定性的なものでもあります。形式知と暗黙知と言い換えることもできます。 H.I.アンゾフはかつて、2つの情報をいかに上手く重ね合わせ、時代環境に即応し、不測の変化を読み解くかを示唆していました。

現代はデータ処理として、ビジネス・インテリジェンスという分野が成長していますが、だからこそ人の持つソフト情報が一層求められるはずです。ソフト情報は現場から生まれてくるものであって、現場知は個人知、暗黙知です。この現場知を戦略知に、個人知を組織知に、暗黙知を形式知に醸成し、知の転換を加速する必要があります。

情報を知に転換することがナレッジ・マネイジメントならば、この知を活用し、新たな意味を付加していくことがインテリジェンスマネジメントといえるでしょう。

7-3, 戦略的発想からのインテリジェンス・リテラシー

戦略リテラシーとインテリジェンスリテラシーでは、戦略マインド、つまり戦略的な発想・態度・姿勢を不断に創り込んでいくことが肝要です。図表7・3に示すとおり、上から4つの要素は意識して避けなければなりません。これから特に意識すべきものは、下にある4つの発想です。

捨て去るべき4項のうち、3項目までは容易に理解できるでしょう。4つ目の特殊意識とは、例えば「我々の業界では」など、思い込みで他者を区別し、身勝手 な線引きを行うことです。こうした傾向は法律で規制されている業界や、逆に保護されている業種・業界にしばしば見受けられます。これらの4つに縛られる と、新たな発想や戦略思考は生まれてきません。

ここで改めて求められる発想は、次に続く4つの要素、目的思考からの4つの発想と思考性です。目的思考は目的と手段の関係性です。これは理解しているつも りでも、往々にして手段が目的化されるといったことが起こりえます。ですから、絶えず目的を振り返り、志向性を確認することが肝心です。さらに必要なこと は、こうした議論を通じ、新たな発想や考え、気づき、発見を深め、探求心を維持することです。

時として現状否定から始めなければなりませんが、強い意志で臨まない限り、前記4項の誘惑に引きずられてしまいます。残念ながら現状肯定からは変革は生ま れません。変革や革新、そして新たな戦略は、むしろ危機感から生まれてくるものです。外部からの突発事象に振り回されないためにも、自ら先んじて変革を起 こすことが望まれます。戦略は自己変革を促す起爆剤に他なりません。

もう一つ創造的プロセスとしては、巨視的な普遍化と、絞り込みによる具象化を繰り返すプロセスです。発想を意識的に切り替える効果は大きいものです。再三視点の問題を扱ってきましたが、これも大切なインテリジェンスといえるでしょう。

さらにこれらを上手く進めていくには、3つ目に示す、絶えず全体思考を持っていることが重要です。戦略思考は重点思考であると説明されますが、それは前 もって全体が見えていることが前提で、全体を通じてこそ重点が浮かび上がってきます。全体抜きに重点は定めようがないのであって、芯のない重点は単なる部 分最適に過ぎません。

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7-2, 戦略リテラシー

前述の2つのリテラシーに共通するのは、戦略的な発想および態度です。図表7・2の三角形の左斜辺は戦略策定を、右斜辺は戦略実行を表します。その源泉であり基盤となるのが、底辺に位置付けられた戦略マインドです。

この三位一体の能力が戦略リテラシーであり、その発揮にはインテリジェンスリテラシーも不可欠です。正三角形において、戦略マインドの間口が全体の大きさを決定づけます。ゆえに戦略マインドを確保しない限り、環境に即応して戦略を創造し、実行していくことはできません。

近年、戦略の認知が進んできたとはいえ、いまだ十分なレベルとはいえません。原因は、単なる知識やスキルとして導入できるとの浅慮からくるものかもしれま せん。ポイントはいかに発想し、行動するかであって、単なる知識の集積とは異なります。実践を通じて気づき、学び、発見していく姿勢が問われています。

戦略マインドを持ち、戦略を策定する能力と、実行する能力から成果までつなげていく、ガイド役として戦略リテラシーが求められています。乱気流下では戦略 的意思決定の仕方、プロセスも意識的に変えて行かなければなりません。ここでいう3つのアプローチは、まさにこれに焦点を当てています。戦略リテラシーは 個人だけでなく組織体にも問われているのです。

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