戦略はなぜ似かよるのか(3)「戦略デザイン」

戦略と戦術の違いはいつも言われることである。例えば、その代表的な説明では、戦略はWhat to doを明らかにすることで、戦術はHow to doを決定していく事であると。この解説は一見として分かり易い。また、別の捉え方は戦略は構造変革を目的とし、戦術は過程変革を対象としている、という説明である。どちらかと言うと戦略の本質を理解するには。この方が本来的な捉え方といえる。
「戦略はなぜに似てしまうのか」という問題の所在は、戦略といいながらもその中身は、殆ど戦術の過程の変革を議論しているのに留まっているのである。これは既存の構造すなわち枠組みを基本に置きながら戦略を導き出そうとしている。
こうしたことから、本来の戦略の議論がされていないのである。戦略は構造変革であり、新たな構造を創造することである。新たな構造とは、正に新たなビジネスモデルの創造でもある。 これは、探究的な戦略の追求であり、創造的な戦略の発想である。
ここには「戦略アイディア」が重要で、力強い「戦略アイデンティティ」が存在していなければ生み出すことは出来ないのである。 これらが新たな戦略創造に起点であるといえる。
そして、戦略アイディアは戦略アイデンティティを原点として、現場、現実からの様々な経験から導きだされる新たな発見と気づき、学びに存在する。 それは、もしかしたら直観による戦略の発見に遭遇するかもしれない。
これは創業者に通ずるものであるかも知れない。ベンチャー企業のはじまりの様相に似ているかもしれない。すなわち、企業家というよりかは起業家である。すなわち、新たな戦略の創造は起業家精神がなければならなという事かもしれないのである。
しかし、その戦略の気づき、学び、発見だけでは、新たな戦略にはならない。そこには、成果に結びつくための具体的なプロセスを創り出さなければならない。これはビジネスシステム、あるいはビジネスプロセスとされるものである。 事業を成功に導き出し成長し続けるには、その仕組みと仕掛けが必要となる。これが明らかに出来て新たなビジネスモデルが創造できたと言える。
この一連の内容と展開は戦略デザインといえる。つまり、戦略アプローチには、デザイン思考がなければならないということを示している。 戦略分析の麻痺に陥らず、分析はあくまでも手段であってそれは目的ではない。
デザイン思考は、先ずは目的性をより具体的に明らかにしていく事にある。そして戦略コンセプトとしてまとめながら、このコンセプトの具象化を戦略ストリーとして描いていくことである。しかし、これら一連のクリエイティビティは、思考の創造的破壊の繰り返しによって修錬化され見出されてくる。

戦略はなぜ似かよるのか(2)「戦略の視野」

今の時代は、異業種をも取り込んだ競合・競争の「戦略の視野」が必要なのである。 そして、戦略の落とし穴に陥らない為には、こうした異業種間も当然ながらグローバル競争がその視野と視点が存在していなければならない。
「戦略の落とし穴」に入り込んでしまう、あるいは「同質的な戦略」から飛び出せない、また努力して新たな戦略を明らかにとしても、結果的に「現状延長型の戦略」になってしまう。この多くのは戦略創造・策定のプロセスのあり方に基因している。
一般的に、つい最近までは競争戦略と言えば、先ずはポーターの競争戦略を理解し、提唱された競争戦略フレームワークをいかに駆使し、そこから新たな競争優位性を見出していくかであった。これに熱中した時期もあった。今でもまだその傾向が残っている。
度々、提唱されるどの戦略アプローチも必ず時代的背景が存在している。ゆえに、絶えず「戦略の本質」を理解して、それらの戦略アプローチを活用し取り組んでいく事が大切なことであるといえる。
当時、代表的であったポーターの競争戦略は、競争優位、バリューチェーン、ファイブフォース、差別化、トレードオフ、適合性など競争戦略を明らかにするためのフレームワークやアプローチを提供してくれた。 戦略研究の分野においてこの貢献は、これまでは非常に大きいものであった。
このポーターの競争戦略アプローチは、基本的には構造分析を中心として、そのフレームワークに基づき情報分析をしていく戦略プロセスであった。しかし、その方法は、決められた 戦略フレームワークに基づき、一定のルールに基づき情報を加工し、戦略を導き出そうとするインフォメーション・プロセスに留まっている。
そして、これらは業界構造分析を基本としてるため、既存企業の多くは現在の業界構造から戦略的に飛び出すような新たな創造的な戦略を見出すことは期待できない。 結果的に見出される戦略は「戦略マイオピア」に陥ってしまう。
これは、「分析の麻痺」といわれる現象のもので、こうした戦略アプローチに基づき膨大な時間と費用を投入しても、互いに同質的な戦略しか見出せないのである。
結局、既存の業界の属している企業群はどの企業も、競合・競争相手も同質的な戦略の競争でしかないのである。

戦略はなぜ似かよるのか(1)「戦略の距離」

多くの既存企業において選択する行動が似てしまう。競争・競合関係の中で他社の違い見出して、差別化を図ろうとするが、結果的に互いに同質的な戦略に陥ってしまう。そして、それを避けるため他社よりも一歩先をいく、スピードをもって競争優位性を実現しようとする。
この現象は、新規事業への参入や展開においても同じ傾向をみることができる。既存企業とベンチャーと称する企業の違いはどこに存在しているのであろうか。特にその意思決定行動において、これを仮に戦略とするならば、その点から眺めてみる必要がある。
既存企業においてベンチャー企業と比較して、独自性をもった戦略を創り出すことは非常に難しいとされる。他社と全く異なった戦略を採った場合、それには極めて不透明で不確実な意思決定となり、自らがリスクをとることになってしまう。 その為に全く「異なった」差異化戦略よりも、せいぜい「違い」をもった差別化戦略を選択する程度に留まってしまうことになってしまう。だから、よく戦略は差別化戦略だと受取ってしまう。
つまり、「戦略の距離」が近い範囲での選択となる。この戦略の距離は、自社の既存事業との距離でもあり、もう一方は競合他社との距離でもある。
既存企業が、仮に新規事業といっても、それは自社内での新規事業領域であって、他社においては既存事業領域であるかもしれない。 つまり、既存企業の新規な事業は「新奇」事業ではないのである。 結果的に、差異化戦略にもならないことになる。
なぜ、同質的な戦略から飛び出せないのか。その理由はそれぞれにあるものの、基本的にはどの業種・業界も既存のビジネスモデル、市場構造などによってその競争構造が形づけられしまっている。こうした競争構造はそう簡単に変えることは出来そうにない。仮に、構造変革があるとしたら新たな技術革新が突如として出現するか、他の業種・業界からの新たなビジネスモデルによる新規参入である。それは、まさにベンチャー企業であるかも知れない。
こうした現象が起きたならば、そこに新たな競争構造が生み出される。 そうならば、新たな競争環境に適合する戦略を創り出していかなければならない。
しかし現実的には、この戦略はせいぜい追随型戦略の範囲に留まってしまう。従って、短期的に新奇で独自な戦略を創り出し、実現することは非常に難しい。それも、簡単に即座に競合他社の追随を許さない戦略を創り出すことは容易ではないのである。
新たな独自な戦略を創造し自らが変化を起こすことは、そう容易ではない。これこそがイノベーションの本質ではあるが、そこには一体何が必要なのか。少し俯瞰して考える必要がありそうである。